映画「急に具合が悪くなる」を観てきました

本と映画のこと

べんぞう

 第79回カンヌ国際映画祭で、最優秀女優賞を岡本多緒さんが受賞されたことで話題になっている映画、濱口竜介監督の「急に具合が悪くなる」を観てきました。

 あの名作「国宝」よりも長尺の3時間16分の堂々たる長編映画です。

 日本人の演出家の真理さんと、介護施設で働く、マリー・ルーさんの対話が映画の中心にあり、その周りを長塚京三さんの俳優や少年、介護施設の人々が様々に関わってくる物語です。場所はほとんどがパリで、最後の方に京都が少しでてきます。

 ほとんど初対面の真理さんとマリー・ルーさんが演劇の上演後、とゆっくりと歩きながら様々な話をすることが、とっても素敵にみえる映画です(その前段にある舞台での日本語による質疑応答も良いシーンでした)。歩くテンポと会話のテンポがシンクロしていくのです。

 映画の上映時間は長いけれども、この二人の会話を聴いていると、心が浄化されていくように思います。マリー・ルーは早稲田大学で文化人類学を勉強したので、日本語が堪能、真理さんはソルボンヌで哲学を専攻したということで、フランス語もよくできる、という設定です。ですから、二人の会話はフランス語と日本語が行き交うものになって、会話の中に一層入っていくのは、監督の作戦だと思いました。

 私にとっての圧巻は、二人が出会った夜に介護施設に行って、コーヒーを入れる時間に、マリー・ルーの直面している課題を真理さんがホワイトボードに書いていく分析をしていくシーンです。資本主義の拡大志向が郊外を都市に組み入れていくプロセスのわかりやすい説明は、ほんとうに腑に落ちるものでした。

 二人の会話には、日本の高度経済成長の謎解きなど、たくさいの者の見方の提示がありました。

 とは言え、理屈っぽい映画では全然なく、仕事で苦労をしている人と病を得て日々を誠実に生きている人たちの物語です。

 時に真理さんに、そして時にマリー・ルーになれる関係をどんな風にしたら構築できるのだろうか。こうしたことを深く考えることができる映画でした。

 なお、映画を観ていて少し違和感があったのが、自然(セミの鳴き声や葉の色彩)なのです。これを謎解きしている人がいることを知ってビックリしました。奥が深い。

 これ以上は「ネタバレ」になるかも知れませんから、ここでオシマイにしたいと思います。

 原作は宮野真生子・磯野真穂「急に具合が悪くなる」(晶文社、2019年)。

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