コレクション展という贅沢

エッセイ・コラム

美術に詳しいわけではない。それでも、美術館は私にとって新しい発見に満ちた大切な場所だ。ゴッホやフェルメールなど、オープン前から話題になる著名な作家の大型企画展にも行くが、美術館のコレクション展や、チラシに惹かれて作家も作風も知らずにふらりと行くこともある。最近訪れた「没後50年 高島野十郎」展も、そんな出会いの一つだった。

◆美術館に行く理由

私は何を求めて美術館に足を運ぶのだろう。他の人はどうなのだろうか。そんな疑問に答えてくれる一冊の新書に出会った。美術館の歴史や最近の動向、来館者の意識までをわかりやすく解説した『忙しい人のための美術館の歩き方』(ちいさな美術館の学芸員著、ちくま新書)である。

学芸員である著者が美術館の常連客に動機を尋ねたところ、「忙しいほど美術館に行きたくなる」「日常では動かない感情を美術館で刺激する」「クリエイティブなものに触れていたい」といった理由が印象に残ったという。私の場合も、美術が仕事に直結するわけでも、すぐに役立つわけでもない。しかし、日々の行き詰まり感をほぐし、原点を思い出させ、癒やしてくれるなど、様々な効用を感じている。一方で、美術館に年1回以上行く人は25歳以下と60歳以上がそれぞれ30%程度を占めており、働き盛りの世代は、もったいないことに美術館との縁が薄いようだ。

◆最近の美術館事情

英国のアート情報誌『The Art Newspaper』によると、2025年の美術館来館者数ランキングではパリのルーブル美術館が900万人で首位を維持し、日本からも7館がトップ100に入った。上位の海外美術館の事例を見ると、豊富なコレクションを生かした常設展示だけでも、多くの来館者を引きつけていることがわかる。

翻って日本では、新聞社などの協賛による海外美術館の所蔵品展(ゴッホやフェルメールなど高名な画家の企画展)が大人気だ。こうした企画展は運搬などの経費がかさむためチケットが高額になるのは致し方ないが、人混みの中でゆっくり作品と対峙できず、欲求不満を覚えることも往々にしてある。

また、最近は事前予約制の導入で待ち時間こそ減ったものの、気づいた時には最終日まで完売しているケースも少なくない。今年8月21日から大阪中之島美術館で開催されるフェルメール展にいたっては、発売前から「当日券なし」と発表された。混雑は回避されるだろうが、残念ながら「時間ができたからふらっと美術館に行こう」というわけにはいかなくなっている。

◆コレクション展に期待

そんな鳴り物入りの展覧会がある一方で、一見地味ながらも心に残る素敵な展覧会はたくさんある。特に期待したいのが、都道府県や各館が所蔵する名品・珍品をテーマに展開する「コレクション展」だ。これまでの常設展といえば、メッセージ性に乏しく所蔵品が並んでいるだけという地味な印象もあったが、最近は所蔵品の魅力を全面的に押し出す企画が増え、内容が様変わりしている。

例えば、2024年に東京国立近代美術館と大阪中之島美術館で開催された「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」は、3館のコレクションから共通点のある作品を選び、34組のトリオとして紹介するユニークな試みだった。絵画や彫刻、写真、デザインなど、総勢110名もの作家の作品を一度に味わえる、なんとも贅沢で楽しい展覧会であった。

また、今春に大阪市立美術館で開催された開館90周年記念特別展「全力!名宝物語」では、普段は解説をあまり気にしない私が、一つひとつの説明に引き込まれてしまった。同館のコレクションを「章立て」ではなく「話立て」で構成し、美術館全体を一つの物語として楽しませる工夫が実に見事だった。こうした新しい取り組みをこれからも体験できると思うと、今から胸が躍る。

大型企画展が美術館への「入り口」だとするならば、コレクション展はその館の「個性」に出会える場所だ。コレクション展は今のところ予約も必要なく、人の流れも気にせず、企画の妙と作品の魅力をじっくり堪能できる。それぞれの館が紡ぐ物語に出会えるコレクション展こそ、これからの美術館の大きな見どころではないだろうか。

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